図のような直交座標{x,y,z}において
マトリクス形では
のように書く.
定義より明らかに,sijはi=j,即ち二つの添え字が等しい成分はi面の垂直応力であり,i≠j,即ち二つの添え字が異なる場合はせん断応力である.そして,せん断応力は共役であったから,
すなわち,応力テンソルは対称テンソルである.
注)ここでは,直角座標系{x,y,z}を考え,任意の座標軸をi,jの様に表す.ここでi,jはx,yあるいはzを表す.なお,通常の解説では,x軸をx1,y軸をx2,z軸をx3と書き,座標軸をxi,xj(ここで,i,jは1,2あるいは3)等と表している.
なお,テンソルの定義によれば,sijの第1添字は変換されたベクトルの成分,第2添字は変換されるベクトルの成分に対応する.したがって,応力テンソルの成分は,厳密には第1下添字が応力の作用方向,第2下添字が応力の作用面を表すように定義する必要がある.幸い応力テンソルは対称なのでこれら2つの添字を入れ替えても影響はない.歴史的に今の定義が使われているので,本書でもそのままの定義としてある.
物体が変形し,最初R=(x,y,z)T(上添字Tは転置を意味する)の位置にあった点PがR+u,の位置P' に移動したとする.ここで,u=(ux,uy,uz)T は変位ベクトルである.
変位ベクトルを
とするとき
すなわち
を,座標系{x,y,z}における「テンソルの定義によるひずみ成分」,eijを成分とするテンソル
をひずみテンソルと定義とし,マトリクス形では
等と書く.
定義より明らかに
が成立しひずみテンソルもまた対称テンソルである.
なお,せん断の成分のみを2倍した定義
によるものを,「工学の定義によるひずみ成分」と呼ぶが,この定義による成分はテンソルの性質を満たさず,座標変換公式等テンソルに関する公式を適用できない.
テンソルの成分 eij の物理的意味は次のようである.
単位長さ離れた平行な2つのi面のj軸方向の変位.
言い換えれば,
i=jの場合は,i軸方向線素の単位長さ当たりの伸び
i≠jの場合は,i軸とj軸がなす角度の減少量の1/2
となる.すなわち,i=jの場合は垂直ひずみであり,i≠jの場合は工学の定義によるせん断ひずみの1/2である.
引張試験によれば,引張ひずみと引張応力は比例しそれらの比はヤング率になること,引張ひずみと横ひずみとの比は-n となること,および工学の定義によるせん断ひずみとせん断応力の比が横弾性係数であることから,一般の三軸応力状態におけるフックの法則は次式となることが分かる.
これの逆関係は
である.
ここで,E,Gおよびn はそれぞれ,ヤング率,横弾性係数およびポアッソン比であり,
の関係がある.式(6)を用いて[i],[ii]を書き改めれば,
とも書ける.また,この関係は
とも書ける.式(7'),(8')は,総和規約(同じ添え字が2度現れる場合はその添え字についてx,y,zの総和を取る)に従うものとする.
以上の他に,応力成分およびひずみ成分を列ベクトルして表示した次の形式もしばしば用いられる.
○応力テンソルをs とすれば,外向き単位法線ベクトルがnの仮想断面に働く応力ベクトルPは次式で与えられる
○ひずみテンソルをe とすれば,物体の変形による,物体内の微小線素DXの変化分(剛体回転を無視した変化分)DSは次式で与えられる
s,eはいずれも対称テンソルであるから,3つの実数である主値と互いに直交する3つの主軸を持つ.そして,
○応力テンソルの主値をs1,s2,s3主軸をp1,p2,p3とすれば,
主軸を基底ベクトルとする座標系{p1,p2,p3}では,
せん断応力成分は全て0であり,垂直応力成分はs1,s2,s3である.
すなわち,
s1,s2,s3を主応力,p1,p2,p3を主応力軸と呼ぶ
○ひずみテンソルの主値をe1,e2,e3主軸をp1,p2,p3とすれば,
フックの法則よりひずみテンソルの主軸は応力テンソルの主軸と一致する.
主応力軸に沿った微小直方体は,変形によって各主応力方向に単位長さ当たりek伸びた直方体となる.
そして,ひずみテンソルは
e1,e2,e3を主ひずみと呼ぶ.