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バイオメカニクス:機械機能研究室

研究内容


バイオメカニクス・インパクトバイオメカニクス

忠実な人体形状を有する頭部物理・有限要素モデルによる
脳外傷発生メカニズムの解明

 頭部傷害は交通事故,転倒,スポーツ等様々な衝撃形態において発生し,また非常に重篤な傷害です. 例えば交通事故だけでも,年間 7000人の犠牲者のうち約50パーセントが脳外傷を死因としています. 事故による犠牲者を減らすためには,まずその発生メカニズムを解明し,それに基づいた防護用品の設計を行うことが必要です. しかし,現状では脳外傷発生メカニズムは明確に解明されていないため,現状のヘルメットやエアバッグなどの防護用品に対する設計基準は真に有効であるとは言い切れません.
 そこで,本研究ではCTやMR画像から忠実に形状を構築した頭部物理モデルと有限要素モデルの両面から, 種々の衝撃条件における頭蓋内部の力学状態を明らかにし,頭部傷害発生メカニズムを解明することを試みています.

 図1は頭部有限要素モデルにより前頭部に衝撃が加わった際の脳の圧力分布を計算し,色の濃淡で示したものです. このようにコンピュータシミュレーションを利用することにより実験では計測が難しい脳の応力状態を可視化することができます. 一方で,図2はラピッドプロトタイピング技術を応用して構築された頭部の物理モデルと衝撃実験の様子を示したもので, 頭部に衝撃が加わった際の頭蓋内部の圧力応答を計測できます.実験によりコンピュータシミュレーションの精度検証や現象の実観測を行っています.

図1 有限要素モデルによる脳の圧力分布の可視化

図2 頭部物理モデルによる衝撃実験

個体差を考慮した人体デジタル・モデルの構築と衝撃シミュレーション

 現在,自動車やヘルメットなど様々な安全装備の設計及び評価には人体のダミーやコンピュータ・モデルが用いられています.しかし,これらのモデルは欧米人の平均体形であり,私たち個人が持つ多様性を考慮した対策が行われてきておりません.そこで,個人個人のコンピュータ・モデルを簡便に構築することが出来れば,個人にとって最適な製品設計が可能となります.そうすれば,これまでの「平均体形」の人間のための「もの中心の製品設計」から「人間の多様性」をカバーした「ひと中心の製品設計」へのパラダイム・シフトが可能となりより安全・安心な社会を実現することが出来るようになるでしょう.
 そこで,私たちの研究室では,個体別体形を反映した精密さと限られた身体形状データから創成できる容易さとを兼ね備えた,個体別人体デジタル・モデルを構築し,各種事故形態に応用することにより,人体の個体差が事故時の傷害内容に及ぼす影響について研究を行っています.
 具体的には全身をマルチボディでモデル化し,詳細な傷害解析が必要となる頭部を有限要素でモデル化したハイブリッドモデルにより全身の個体別デジタル・モデルを構築しています.図は日本人男性の身長及び体重の分布図と,その分布の端(95パーセンタイル)に位置する体形の全身マルチボディモデルを示したものです.このような様々な体形を有する全身マルチボディモデルを身長及び体重のみから容易に構築することが可能です.また,図は日本人男性の頭部形状分布図とその分布の端(95パーセンタイル)に位置する頭部形状を有する頭部有限要素モデルを示したものです.これらのモデルを用いて例えば図に示すような自動車事故時の全身挙動・脳応答解析を行い,人体の個体差がこれら物理量に及ぼす影響を調べています.

図3 代表体形全身マルチボディモデル
図4 代表形状頭部FEモデル

図5 乗員挙動解析

子ども事故予防のための遊環境の傷害シミュレーション

 子どもの死亡原因の第一位は”不慮の事故”であり,これは30年間変わっておりません。 そこで,子どもにとって安全な生活環境を構築するするためには、事故情報を収集し,そのデータベースに集約される情報を有効活用し、 事故原因究明と再発防止策を立案することが必要となります. そこで、本研究では子どもの事故サーベイランスシステムにより事故データの収集と その対策法の開発を行っている(独)産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センターと共同で、 事故データを重症度、一般化可能性、社会ニーズの高さに関して分析し, そこから子どもの転倒・転落現象に着目し、子どもの全身モデルを用いた転倒・転落現象の解析を行うことにより、 事故原因を知識化・一般化し対策法の開発を行うことを目的としています。
 例えば,これまでに事故データより抽出したらせん階段つきすべり台に関する事故に関して分析を行っております. 子どもマルチボディモデルや有限要素モデルのようなコンピュータ・モデルを用いた転倒シミュレーションを大量に行うことにより仮想的な事故データベースを作成し, それにより転倒傷害の危険度を可視化することにより事故原因の解明を行いました. 図6は子どものマルチボディモデルを用いた転落シミュレーションの様子を示しており, その結果を分析することにより,図7のような転倒傷害危険度の可視化を行いました。階段内側が危険である様子が見て取れます。

図6 子どもマルチボディモデルによる遊具の転倒シミュレーション
図7 らせん階段つきすべり台の転倒傷害危険度の可視化

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