北陸数論セミナー 過去の記録(平成22年度)

第115回 (平成23年 1月27日 18:15〜)
講演 横山俊一氏(九州大学D1)
       代数的整数論における計算機の援用例
概要     計算機を援用する研究は、解析寄りの数学のみならず、最近では代数の分野においても活発に行われています。特に Magma や Pari-GP, SAGE といった個人でも扱える高性能かつ手軽なソフトウェアの普及がその大きな流れを支えているようです。
本講演では、代数的整数論の分野から比較的新しい話題(+講演者の現在進行中の研究)をいくつか取り上げ、そこに計算機がどのように寄与しているかについて、なるべく計算機用語を用いず解説させて頂きます。主に
  ・Serre の保型性予想(2007年解決)の一般化予想
  ・楕円曲線や保型形式に纏わる(より進んだ)計算
などを取り扱う予定です。
第114回 (平成22年 12月16日 18:15〜)
講演 吉野健一氏(金沢医科大学)
    名作を訪ねてII・・・Kroneckerの整数論(全集第I&II巻から)
概要  Kroneckerの全集の第I&II巻から整数論に関連したところを抜粋して、その概略を紹介する。これらの論文は大体以下の3つの系統にまとめられる。
・第1の系統:Kummerの整数論でp円分体で成立しているものを一般n円分体に
       拡張しようというものとそれに関連するもの
・第2の系統:Gauss の和と平方剰余の相互法則の第3の証明の流れを組むもの
・第3の系統:円分方程式の既約性の証明と一般の方程式の既約性の判定
第1の系統には、合成導手の円分体の場合にHasse unit indexが2であることの証明(I巻[VII])や円分体の最大実部分体のイデアル類群から円分体のそれへの自然な写像が単射であることの証明(I巻[IX])などを丁寧に示す論文が含まれる。第2の系統の論文の叙述は概ね丁寧であると思われる。また、第3の流れには第I&II巻の中で白眉と言える重要な論文(II巻[VI]1880年)が含まれている。これは第IV巻のPell方程式の論文(IV巻[XXI])やKronecker極限公式の論文(IV巻[XXXI])と関連して、彼の研究がある高みに到達したことを示しているのだが、その叙述は証明を抜きに結果を淡々と述べている形式の大変分かりにくい論文である。

第113回 (平成22年 12月2日 18:15〜)
講演 小山信也氏(東洋大学)
    量子エルゴード性の一般化
概要  量子エルゴード予想とは,ラプラシアンの固有関数の値分布が固有値の増大に伴って限りなく一様になるだろうとの予想であり,量子力学における準古典極限との関係から,物理学的にも意味の深い予想である.この予想は2006年にリンデンシュトラウスによって任意の負曲率コンパクト・リーマン面に対して証明され,彼はこの業績によって2010年にフィールズ賞を受賞した.その後,この結果はサンダララジャンらにより一般化されている.
 一方,固有関数の意味を連続スペクトルに広げて量子エルゴード予想の類似を考える問題は,1995年にルオとサルナックによって提唱され,彼らはモジュラー面に対してこれを証明した.
 本講演ではこの問題の一般化を扱う.この場合,量子エルゴード予想の証明は保型L関数の評価に帰着されるが,評価の別アスペクトを考えることにより,対応する量子エルゴード性の別アスペクトが自然に考えられる.その結果,たとえば合同部分群のレベルの増大に伴うアイゼンシュタイン級数の値分布の一様性という,新たな現象が証明できる.

 なお,本講演の内容は拙著『素数からゼータへ,そしてカオスへ』に詳しく解説したものである.

第112回 (平成22年 11月18日 18:15〜)
講演 小松亨氏(東京理科大学理工学部)
    素数 pが完全惰性する pベキ次の代数体について
概要  有理数体の任意の 8次ガロア拡大において, 素数 2の剰余次数は 1,2,4のいずれかであることが知られている。つまり, 素数 2は 8次ガロア体で完全惰性しない。(この事実などを用いて, 有理数体上で生成的な 8次巡回多項式の非存在性が証明される。) 素数 pと正の整数 mに対して, 素数 pが完全惰性 (拡大次数 = 剰余次数) であるような p^m次体について考える。
 今回の講演では, いくつかの問題提起と計算実験による考察を紹介する。
第111回 (平成22年 11月4日 18:15〜)
講演 田中諒氏(金沢大学大学院電子情報工学専攻M2)
    2次体の整数環を用いた素数判定
概要   高速な素数判定法は、RSA暗号の鍵生成など応用面でも重要であり、強い関心の対象となる。リーマン予想に基づいたミラーの決定的判定法や、ミラー・ラビンの確率的判定法等は特に有名である。
  今回、計算機を用いた数値実験により、2次体の整数環を利用したフェルマーテストの類似が、少なくとも1兆以下の全ての合成数を正しく判定することが分かった。この判定法が全ての自然数に対して正しく働くことの証明はまだできていないが、それを目指す過程で得られた補題や、計算量を主とした本判定法の優位性などに関して報告を行う。
(この判定法は、既に知られている可能性もあります。そのあたりも御教示いただければ幸いです。)
第110回 (平成22年 10月21日 18:15〜)
講演 森澤貴之氏(早稲田大学大学院博士課程1年)
   円単数のMahler測度とWeberの類数問題
         (岡崎龍太郎氏との共同研究)
概要  有理数体の円分的 Z_p 拡大の中間体について, その類数が 1 になるかどうかということが問題となっています. これを Weber の類数問題と呼びます.
  しかし,類数が 1 であるかどうかを判別することは難しいため,素数 $\ell$ について, その類数が $\ell$ でわれるかどうかを考えます. $\ell = p$ の場合に関しては, 岩澤健吉によって, 類数が p でわれないことが証明されました. $\ell$ と p が異なる場合に関しては,堀江氏が精力的に研究をされています. p=2 の場合については,小松氏, 福田氏, 岡崎氏により研究が進められております.
  今回の講演では, p が奇素数の場合に, 有理数体の Z_p 拡大の中間体の類数が $\ell$ でわれるかどうかに関する結果について, 話させていただきます.
第109回 (平成22年 10月14日 18:15〜)
講演 吉野健一氏(金沢医科大学)
    導手が 4p および3p の円分体の相対類数について
概要  虚アーベル体の相対類数にどのような素数が現れているかはまだ明らかになっていないことのように思われる。この方向の研究では、導手を割る素数が相対類数にいつ現れるかという系統のものがある。
  最初の簡単な例として導手 4p 或いは3p の円分体の相対類数がある。例えば、その相対類数がpで割れる必要十分条件はM.Gut やErnvallの結果として知られ、オイラー数とベルヌイ数などを使って判定される。それは f = 4p および3p の虚部分体の相対類数に対しても一般化がなされる。また、オイラー数の相対類数に関連する諸性質などをMetsankylaとErnval の論文などから抜き出して紹介する。
第108回 (平成22年 7月29日 18:15〜)
講演 山下浩氏(金沢大学人間社会研究域)
     S類群の位数に関する類数関係について
概要    無限素点をすべて含む代数体kの素点の有限集合をSとする. kの有限次ガロア拡大Kの部分群のS類群に関する類数関係が
E. Kani: "Discriminants of hemitian R[G}-module and Brauer's classnumber relation"(1994), Theorem 2.7
で得られているが,この論文ではBrauer's class number relationをこれより導く部分は省略されている.
Kaniの公式を L-valued bilinear R[G}-modulesを用いて, C. Walter, Acta Arith. 35(1979), 33-40で示されているBrauer's class number relationへの変形の方法を紹介する
第107回 (平成22年 7月15日 18:15〜)
講演 藤井俊氏(慶應義塾大学)
     円分的Z_p拡大上の最大不分岐pro-pガロワ群の非可換自由性について
概要  .p を素数、k を有限次代数体、K/k を円分的Z_p拡大とします。K の最大不分岐pro-p拡大のガロワ群 G(K) について、最近、幾人かの人々によって、G(K) は非可換free pro-p群とはならないのではないかと考えられています。
 本講演では、素数 p が基礎体 k で完全分解する場合に、k と p について一般 Greenberg 予想が成立すれば、G(K) が非可換自由pro-p群とはならないことについて、
例を交えて話をしたいと思います。
 (昨年のRIMS研究集会「代数的整数論とその周辺」でも同様のことを発表しましたが、今回はより詳しく話をする予定です)
第106回 (平成22年 7月1日 18:15〜)
講演 小山信也氏(東洋大学)
     一元体と絶対ゼータ関数
概要  .一元体は,ティッツにより1957年に,代数群とワイル群の関係を記述する目的で提唱された.マニンは1995年,黒川テンソル積が一元体上の積とみなせること,そしてそれを用いたリーマン予想解決の可能性を指摘した.そして2008年以降,コンヌらによる非可換幾何学を用いたリーマン予想攻略の試みの中で,一元体が本質的に用いられるようになってきている.
  本講演では,一元体上の数学が絶対数学と呼ばれる所以を概観し,一元体とその上の多元環を定義し,ヴェイユ型のゼータ関数を計算する.それらは行列式表示を持ち,零点の加法性を満たすことを証明する.
  なお本講演の内容は黒川信重氏(東京工業大学), Sojung Kim氏(梨花女子大学)との共同研究である.

参考文献:
黒川信重・小山信也 「リーマン予想のこれまでとこれから」(2009年12月刊)
黒川信重・小山信也 「絶対数学」(近刊)
第105回 (平成22年 6月17日 18:15〜)
講演 平林幹人氏(金沢工業大学)
     Hasse の本「アーベル体の類数について」の付録の紹介
概要  .以前に Hasse の本「アーベル体の類数について」の本文の内容を紹介したが、付録の相対類数表はできなかった。今回はこの数表の見方を含めた付録全体を翻訳し、解説する。
第104回 (平成22年 5月20日 18:15〜)
講演 河本史紀氏(学習院大学)
     連分数と実二次体に関する Gauss の類数問題
概要   類数 1 の実二次体は無限に多く存在するだろうと主張するGauss 予想について論じます.連分数による数値実験の結果を報告し, 類数 1 の実二次体の無限族の抽出方法を提唱します.
   これは冨田耕史氏 (名城大学) との共同研究です.
第103回 (平成22年 4月22日 18:15〜)
講演 若槻聡氏(金沢大学理工研究域)
         4元数環の整環について
概要 4元数環の整環についての既知の結果についてサーベイする。
特にEichlerのclass numberの公式とPizerのtype numberの公式について紹介する。